交通事故を起こしたけど、病院の支払いはどうなるんだろう・・
治療費を請求するなんて、一体どうすればいいのか分からない。
交通事故によるケガで病院の治療を受けるとき、最終的に誰が治療費を支払うのか、どのように治療費を請求すればいいか、不安を感じる方は多いのではないでしょうか。
治療費の請求はとてもハードルが高いように思えますが、交通事故の被害者は、それだけ多くの痛みや不安を抱えての生活を余儀なくされるということでもあります。
編集部
交通事故後の治療費について、大まかな流れを知っておくと、治療を継続する上での不安を軽減でき、治療に専念できますよ。
本記事では、下記について説明します。
- 交通事故の治療費を支払うのは誰?
- 交通事故の治療費の打ち切りを打診された場合
- 交通事故の治療費として保険会社へ請求できる範囲
- 治療費の立て替えに健康保険が利用できる
- 立て替えた治療費を早く回収する方法
ケガだけでなく、加害者やその保険会社とのやり取りで精神面でのダメージも大きいのが、交通事故です。
適切な治療を受け、最大限の補償を受けられるように、自分の身を守る術を身につけましょう。
目次
交通事故の治療費を支払うのは誰?
交通事故のケガで発生した治療費の支払い方法は、下記の2つがあります。
- 加害者の任意保険会社が病院に支払う
- 被害者が一旦立て替えてあとから請求する
加害者の任意保険会社が病院に支払う
交通事故の治療費は、加害者の任意保険会社が病院に直接支払う「任意一括対応」という形がとられます。医療機関によっては、保険会社へ直接請求の手続きを取ってくれないこともあるので、確認が必要です。
加害者が任意保険に入っていなかったり、被害者の過失が4割を超えたりすると、任意一括対応が受けられないことも。
治療費の支払い方法については、一度加害者側の任意保険会社に確認しましょう。
被害者が一旦立て替えてあとから請求する
任意一括対応をしてもらえない場合は、被害者が一旦治療費を自分で支払い、あとから加害者側の保険会社に立て替え分の治療費を請求します。
立て替えた分の治療費は、示談交渉時に請求するのが一般的です。
交通事故の治療費の打ち切りを打診された場合
交通事故によるケガの治療から数ヶ月経過し、加害者側の任意保険会社から治療費の打ち切りを打診されるケースがありますが、治療の延長は可能です。
しかし、打ち切り打診や延長交渉への対応は、個人では難しいことも。
よりスムーズに交渉を進めるには、弁護士へ相談・依頼も視野に考えてみましょう。
治療費を打ち切られるタイミング
保険会社に治療費を打ち切られるタイミングは、治療開始から3〜4ヶ月程度が多い傾向にあります。
保険会社は、診療報酬明細書や診断書を保険会社の顧問医にみてもらい、治療の妥当性を検討します。
治療が長引き治療費が高くなるほど、任意保険会社の負担は大きくなり、おおよそ交通事故によるケガが治癒するであろう3〜4ヶ月で、治療費の打ち切りを通告するのです。
- 通院が1ヶ月以上途切れた
- 湿布の処方やマッサージなど必要性の低い治療が続いた
- 治療の目安とされるDMK136 打撲(D):1ヶ月、むちうち(M):3ヶ月、骨折(K):6ヶ月
特に上記の治療状況では、治療の打ち切りを打診されるおそれがあるので注意しましょう。
打ち切りの延長交渉
治療費打ち切りの延長交渉は、医師の判断や今後の治療目安が重要です。
治療費の打ち切りの打診があった場合は、まず主治医に確認し「症状固定時期」の見解を聞く必要があります。主治医がまだ症状固定でないと判断すれば、任意保険会社へ再度治療延長の交渉をしましょう。
症状固定:交通事故で負ったケガが「これ以上治療しても症状が改善しない、もとの状態の戻らない」と判断された状態
ケガの症状がもう少しで完治しそうな場合は、例えば「あと1ヶ月治療したい」と、治療終了時期を区切って交渉するのも有効です。
保険会社にとっては、治療の先行き不透明が解消されるので、打ち切りの延長が可能になるケースがあります。
自費で治療を継続してあとから請求する
たとえ治療費が打ち切りになったとしても、自費で通院を継続します。
症状固定日が確定したら、症状固定日までの自費通院分を、加害者側の任意保険会社に請求するかたちです。
自費で通院した事実は、痛みや不調が残存していたという裏付けになり、後遺障害の異議申し立てで有利に考慮されるメリットがあります。
交通事故の治療費として保険会社へ請求できる範囲
交通事故の治療費の枠組みには、入院中の雑費を含む、下記の内容が含まれています。
入院や通院により、日常生活に支障が生じた費用も請求できるのです。
「本当ならもっと請求できたのに・・」と後悔しないためにも、それぞれ詳しくみていきましょう。
- 治療費
- 入院雑費
- 入通院付添費
- 入通院交通費
- 付添看護費
- 各種証明書の発行費用
- 装具費
- 子供の学習費・保育費
治療費
治療費は、交通事故によって受けた傷害が治癒または症状固定までの時期に支出された実費額です。診療明細書や領収書が必要になるので、確実に保管しておきましょう。
治療費の中でも「必要性・相当性」があるかどうかが問題で、下記に挙げる治療費は原則として認められません。
- 必要性がないのに複数の病院で治療を受ける治療費
- 個室や差額ベッド代のかかる特別室利用時の室料を超えた出費
- 症状固定後の治療費
セカンドオピニオンや専門医の画像診断など、診療が必要な場面もあるため、複数の病院で治療を受ける過剰診療かどうかは、一概に言えないのが現状です。
症状固定後であっても、将来的に人工関節置換術を受けるなどのように、例外的に治療費と認められる場合もあります。
判断するのは難しいですが、今後の治療や起こりうる事象を予測した治療費を考えることが重要です。
入院雑費
入院雑費には、洗面具などの日常雑貨品費をはじめ、食品の購入、新聞や雑誌の文化費などが含まれます。
入院雑費は、その都度領収書で証明する手間がある上に実益は少ないものです。
おおよそ入院1日につき1,100~1,500円を目安に定額化し、算定されるのが一般的です。
入通院付添費
入通院付添費は、事故の被害者本人以外の人が入院や通院に付き添った場合に生じる費用です。
医師の指示もしくは受傷の程度や被害者の年齢に応じて認められています。
具体的には、下記の状況が挙げられます。
- 下肢の骨折で歩行が困難
- 高次脳機能障害で単独の通院が困難
- ひとりで通院できない幼児・児童
付添が必要な理由をカルテや診断書に記載してもらうと、認めてもらいやすいでしょう。
入通院交通費
入通院交通費は、治癒または症状固定に至るまでの間に被害者本人が負担した交通費です。
タクシーを利用する相当な理由があれば、その全額が認められますが、基本的にはタクシー利用でも、その区間の電車やバス代相当額しか認められません。
自家用車の場合は、ガソリン代・高速道路代・駐車場料金が認められます。
一般的に、被害者の家族が見舞いや看護のために支出した交通費は、入院雑費や付添看護費に含まれます。
しかし、遠方に家族が居住している場合など、家族が急遽病院に駆けつけた際の交通費は別途認められることもあるようです。
付添看護費
付添看護費とは、医師の指示もしくは被害者の受傷程度や年齢を考慮し、付添が必要と判断された場合に、職業付添人や近親者が付添にかかる実費総額を指します。
脳挫傷や脊髄損傷などの重篤な後遺傷害により、生涯にわたり付添や看護が必要な場合には、将来付添看護費が認められるケースもあります。
各種証明書の発行費用
交通事故にあったら、交通事故証明書や診断書など、人身事故としての証明書が必要になります。
これらの証明書で発生する金額が、治療費として請求できます。
交通事故証明書は、加害者側の任意保険会社が取得するケースがほとんどです。
万が一、被害者自身で交通事故証明書を取り寄せる必要がある場合、交付手数料(1通800円)がかかります。
自分の身を守るために、証明書の発行手続きは確実に行いましょう。
装具費
交通事故によって義足、車椅子、補聴器、義歯、義眼、眼鏡、コンタクトレンズなどの購入が必要な場合は、その実費相当額が装具費として認められます。
将来買い替える必要があれば、その費用も含まれます。
子供の学習費・保育費
子供の学習費・保育費は、被害者の被害状況や家庭の状況、年齢などを考慮し、交通事故との因果関係が認められる範囲で請求できます。
子供の学習費の具体例(子供が受傷した場合)
- 学習進度の遅れを取り戻すための補習費
- 既に授業料支払い済み、休学や留年せざるを得なかった
- 自動車教習所の費用
子供の保育費の具体例
- 親が受傷し、子供の面倒をみれなくなったために負担した保育料
- 幼児が重傷を負い母親が付添、きょうだい児の養育・監視に要した費用
特に幼児の場合は、親が付添う場合が多いので、必然的にきょうだい児の学習費に関しては認められやすいといえます。
治療費の立て替えに健康保険が利用できる
一般的に交通事故による治療費は、加害者側の任意保険会社が支払いますが、下記の場合は、被害者自身が治療費を立て替える必要があります。
- 加害者が任意保険に加入していないとき
- 被害者の過失が大きいとき
- 保険会社に治療費を打ち切られたとき
交通事故の治療費を立て替える際に健康保険を利用すると、全体の治療費の3割負担で済み、治療費を抑えられます。
健康保険を利用したほうがいい理由
もらえる賠償金が増えるケースも
治療費を健康保険で少額に抑えると、傷害に対する自賠責保険の支払限度額である120万円の残りを、治療費以外の賠償金として請求できます。
もし健康保険を利用せず、自由診療で多額の治療費を払った場合、治療費だけで120万円の大部分を占めてしまう可能性が高くなります。
自賠責保険:すべての自動車(バイク含む)の加入が義務づけられる強制保険。対人事故の賠償損害のみ対象。事故の相手の車に損害を与えた場合や自分の車が壊れた場合などは補償されない。
過失割合や状況によりますが、健康保険を利用しないと被害者の持ち出しが発生し、結果的に損をしてしまうおそれも。
治療費の立て替えの負担や自己負担額の減額
交通事故の治療費に健康保険を利用すれば、自己負担額が少なくて済み、一時的に立て替える金銭的な負担も軽減できます。
また、健康保険は「高額療養費制度」が利用できるメリットも。
手術や入院などで医療費が高額になった場合に、年齢や年収に応じた上限額を超えた金額が後日還付されます。
動いている車同士の交通事故では、被害者の過失割合が0になるケースは少なく、過失割合に応じて治療費の自己負担分が生じるのが現状です。
自己負担額を最小にとどめるために、健康保険を利用するのが賢明でしょう。
健康保険を利用できない場合もある
交通事故による治療費でも、なかには健康保険が利用できない場面があります。具体的には下記の通りです。
- 通勤・業務中の事故
- 被害者の故意・法令違反による事故
- 保険診療外の治療
仕事中や通勤途中の交通事故は労災給付が優先されるので、健康保険は利用できません。
また、交通事故の被害者であっても故意に起こした事故や、飲酒運転などの法令違反による事故では、健康保険が使えません。
保険診療外の治療を受けた場合は、自己負担になるおそれが高いでしょう。
- カイロプラクティック
- 整骨院や接骨院以外のマッサージ
- 健康保険適用外の医薬品の使用
立て替えた治療費を早く回収する方法
交通事故による治療が長引くと、一旦立て替える治療費の金銭的な負担は大きく、示談成立後に回収する治療費が手元にくるまでには時間を要します。
そんな時、立て替えた治療費を示談成立前に早く回収する方法があります。
- 加害者側の自賠責保険へ被害者請求をする
- 加害者側の自賠責保険に仮渡金請求をする
- 被害者自身の人身傷害保険を利用する
それぞれ解説します。
加害者側の自賠責保険へ被害者請求をする
加害者が任意保険会社に加入していない場合や、任意保険会社が治療の支払いを拒む場合などは、加害者側の自賠責保険に直接請求(被害者請求)できます。
被害者が立て替えた治療費は、加害者側の任意保険会社と自賠責保険から示談成立後に支払われます。
自賠責保険の支払い分は、示談成立前に請求が可能で、傷害に対する支払限度額は120万円です。
請求できる時期は、損害がある程度まとまり、治癒または症状固定と判断されたタイミングです。
統計では、請求から約1ヶ月をめどに支払われる傾向にあります。
加害者側の自賠責保険に仮渡金請求をする
仮渡金制度は、自賠法(自動車損害賠償保障法)17条が定める請求方法で、損害賠償金の確定前に、被害者が加害者側の自賠責保険会社に前もって治療費を請求できる仕組みです。
請求できるのは1度で、請求後7~10日程度で支払われます。
もちろん、最終的な損害額よりも多く金額を受け取った場合は、差額を返還する必要があります。
被害者自身の人身傷害保険を利用する
被害者自身が人身傷害保険に加入していれば、慰謝料や治療費などの保険金を受け取れます。
自動車保険は主軸となる基本補償に、人身傷害保険などの手厚い補償を付加するのが一般的です。
人身傷害保険は自分の過失割合に関係なく、保険の約款で定められた保険金が支払われます。
加害者本人からの支払い遅滞や未払いになるリスク、そして自賠責保険の上限超過分を回収するために、人身傷害保険の活用も検討するといいでしょう。
まとめ
交通事故の治療費に含まれる費用と支払い方法、万が一立て替えた場合の支払い方法まで解説しました。
各家庭の状況に応じた影響も治療費に含まれるのは、交通事故を起こすと、それだけ被害者を取り巻く環境すべてに大きなダメージとなるからです。
編集部
立て替えた治療費は被害者の金銭的な負担が大きく、不安になりやすいものです。健康保険を賢く活用し、治癒するまで治療できる時間とお金を確保しましょう。
治療費の延長交渉や立て替えた治療費の回収は、個人で判断して行動するのは難しいおそれがあります。
スムーズに交渉を進めるために、そしてひとりで抱え込まないために、まずは弁護士に相談してみるのもおすすめです。